声明・決議・意見書

意見書2015.10.27

警察職員の懲戒処分の発表に関する意見書

広島県警察本部長 殿

広島弁護士会
会長 木村 豊

同人権擁護委員会
委員長 原田 武彦

第1 意見の趣旨
当会は,貴庁における懲戒処分の発表基準に関し,
① 貴庁本部長通達(平成16年4月20日付け広監第556号)別添の「懲戒処分の発表の指針」を貴庁ホームページ上で公開すること
② 上記「懲戒処分の発表の指針」の適正な運用を徹底するよう関係各部署に通達すること
を求める。
第2 意見の理由
1 憲法第21条は,国民の知る権利を保障している。知る権利が保障されることによって,初めて民主主義の健全な発展が実現できることから,知る権利は,極めて重要な権利といえる。したがって,公権力の過剰な規制による情報コントロールは許されない。とりわけ公務員の職務執行の適正確保に関する情報については最大限の情報公開がされなければならない。本意見書は,このような観点から,貴庁における懲戒処分の発表基準が適正に運用されていない実態について,意見を表明するものである。
2 報道によれば,貴庁の巡査長が平成22年1月から翌年11月までの間,勤務規律に違反し,複写した捜査資料などを呉市広弁天橋町及び広島市中区八丁堀に持ち出したとして,平成25年5月に戒告の懲戒処分を受けた(以下「本件懲戒処分」という。)。しかし,貴庁は,本件懲戒処分の発表を行わず,平成26年8月18日,市民による情報公開請求によって,本件懲戒処分が明らかとなったとして,これを複数の報道機関が報道した(以下「本件報道」という。資料①~③)。
3 本件報道によれば,貴庁が,本件懲戒処分後,速やかに発表を行わなかったのは,本件懲戒処分が「公表基準に達していなかった」ということであり,また,その基準の内容について,原則として,①公務中の行為は懲戒処分以上の場合,②公務以外の行為は停職以上の懲戒処分の場合に発表する,と説明した,ということである。
4 本件報道の限りでは,発表基準の正確な内容が明らかでなかったため,当会において貴庁本部長通達(平成16年4月20日付け広監第556号)別添の「懲戒処分の発表の指針」(以下「本件指針」という。)を調査したところ,「職務執行上の行為及びこれに関連する行為に係る懲戒処分」(本件指針第2項(1))に当たる場合は発表を行うものとされ,その発表は,「事案の概要,処分の年月日及び内容等について,特段の事情のない限り,懲戒処分を科した後速やかに行うものとする」(本件指針第3項)とされている(資料④)。
5 本件懲戒処分は,捜査資料の不適正な管理に係るものであるから,本件指針第2項(1)にいう「職務執行・・・に関連する行為に係る懲戒処分」に当たり,平成25年5月に懲戒処分を科した後,速やかに発表すべきであった。そうであるにもかかわらず,貴庁が,本件懲戒処分を発表しなかった上,その事実が報道された後も「公表基準に達していなかった」と説明したことは,①本件指針により発表すべき事案を発表しなかった,②発表しなかった理由について誤った説明をした,という二重の意味で不適正であり,警察による身内の不祥事隠しといわざるを得ない。
6 また,本件指針は,警察庁の制定する「懲戒処分の発表の指針」(平成16年4月15日付け警察庁丙人発第152号通達別添)を参考に制定されたものであり(資料⑤,資料⑥),秋田県警察,三重県警察においても同旨の指針をホームページ上で公開している(資料⑦,資料⑧)。そして,これら指針の制定が,警察をめぐる不祥事を反省し,国民の警察に対する信頼を回復するためにとられた警察改革の施策であることに鑑みれば,本件指針の運用は,常に県民をして監視を可能ならしめるべきであるにもかかわらず,貴庁が本件指針そのものを「内規」と称してブラックボックス化していることは,警察改革の理念を骨抜きにするものであり,本件懲戒処分の隠ぺいを招いた構造的要因である。
7 よって,当会は,貴庁において懲戒処分の適正な発表を確保するため,① 本件指針を貴庁ホームページ上で公開すること,②本件指針の適正な運用を徹底するよう関係各部署に通達することを求める。

以上